当店ではプエブロという銘柄のイタリアンレザーを使用しておりますが
この革は少し特徴的な性質を持っているためお手入れに関しても少し特殊なケースがあります。
今回はプエブロを使用したものづくりをずっと続けてきた経験から
そのお手入れ方法や、本当は教えたくない裏ワザをこっそりご紹介いたします。
その他、ケアブログはこちらをどうぞ▼
プエブロという革について
イタリア、フィレンツェにて古代より伝わる独自の製法を以って鞣された皮革素材。
自然由来のタンニン(渋)を使用し、美しい経年変化を魅せてくれます。
その最大の特徴は、独自の技法により細かく毛がかれた銀面(表面)
プエブロという名前はアメリカ先住民「プエブロ・インディアン」が由来となっており
その素朴で、どこか郷愁のある表情から、プエブロと呼ばれるようになったと言われています。
経年変化の様子|二面性のある表情
これはお手入れの方法にも深く関わってくる重要なポイントになります。
というのも、初期の状態から経年変化後の銀面の性質がまるで異なるからなのです。
初期の様子はこちら
銀面が荒々しく毛羽立っており、色も鮮やか。
先述したように銀面を毛がいた加工が施されており、それにより本来持っている色味のトーンも少し明るく表現されています。
中期〜後期の様子がこちら
荒々しい銀面から一変、スムースな表情と少し深みのある色味に変化します。
さらに使用し続けることで光沢のある銀面を持ち、光を反射し映すようになります。
色も透明感を伴いつつ深く沈んだ色に成長します。
使用状況にもよりますが、早ければ1年間の間でここまで成長してくれます。
プエブロのお手入れに必要な道具について
これに関しては一般的なオイルレザーとそこまで違いはありません。
一般的なものをお持ちの方はその流用で構いませんが、経年変化の度合いに応じて使用方法が少し異なります。
・布きれ
できれば綿など素材自体が柔らかく、吸水性のあるものを使用しましょう。
当店では綿100%の布をおすすめしています。
乾拭きや水拭き、仕上げのクリーム除去などに使用します。
・ブラシ
プエブロに関しては程よい張りコシのある馬毛ブラシをおすすめします。埃の除去用とオイル塗布用とで二つあると良いです。
他にも小回りのきくペネトレイトブラシ(豚毛)もあると便利です。
・レザーケアクリーム
経年変化の中期〜後期にて使用します。
汚れ落としの水拭きの後など、極端に油分を失った時に保湿するイメージです。
当店では比較的入手しやすく万能に使えるラナパーを使用しています。
・真鍮ワイヤーブラシ
初期〜後期におけるトラブル対策の裏ワザに使用します。使用方法については一番最後に書きます。
※使用にあたり、ある程度の慣れと技術が必要となりますので自己責任にてお願い致します。
経年変化の進行度合いに応じたお手入れ方法について
プエブロはほったらかしでも素晴らしい経年変化を魅せてくれますが、より美しく変化を楽しむ為のお手入れ方法のご紹介です。
先述した通り、経年変化の度合いによって銀面の状態が変化してきますのでその状況に応じたお手入れを細かく説明していきたいと思います。
経年変化初期(和紙のようなザラザラな銀面〜サラサラになるまで)
自然な経年変化を楽しむ為に、この段階ではオイルケアなどは不要ですが
埃の除去をしてあげると、より美しい経年変化が楽しめます。
※初期の段階からオイルケアをすると毛羽立ちが落ち着き、一気に色味が深く濃く変化します。
ゆっくり経年変化を楽しみたい場合はオイルをささないほうがいいよ、という程度ですので絶対にやっちゃダメではないです。
埃の除去
埃は革の油分を吸い取り、圧力がかかると汚れとなって銀面に付着します。
そうなる前にブラッシングで綺麗にお掃除してあげましょう。
オイル塗布を行なっていない状態の馬毛ブラシや小回りのきくペネトレイトブラシを使用します。
「歯磨き」の要領に近く、溝や縫い目に入り込んだ埃を丁寧に除去してください。
経年変化中期〜後期(サラサラ〜光沢が出てから)
プエブロの経年変化における中期〜後期においては内部のオイルが表面側に出てきてくれます。
その為、初期の頃と比較して水分や傷などに少しだけ強くなります。
特に後期になると少しくらいの引っ掻き傷は揉みこむことで綺麗に消えてくれるようになるのです。
この段階では、埃の除去→乾拭き→必要に応じて水拭き→必要に応じてオイルケア
の順番でお手入れを行なっていきます。
(埃の除去については初期段階と変わりないので割愛しますが、一番最初に行います)
乾拭き
乾拭きは目には見えない程度の水分を吸いとる為に行うので乾燥の強い冬場はあまり必要ありません。
浸透圧で水分が吸着していきますので柔らかく乾いた布で優しく撫でてあげるだけで大丈夫です。
化学繊維は吸水性が低いのでここでは使用しないようにしましょう。
また、こすりつけるようにすると跡になってしまうことがありますのでご注意ください。
必要に応じて水拭き
ブラッシングで落ちないような汚れがあった場合にのみ行います。
イメージとしては固まった汚れを水分でほぐして落とすような感じです。
しっかり絞った布きれを使用して全体を水拭きしてあげましょう。
注意点として、一部だけの水拭きはシミになってしまう可能性が高いのでおすすめしません。
全体を優しく拭き取ってあげましょう。
その後、仕上げに上記「乾拭き」にて余計な水分を拭き取ってから自然乾燥させてください。
必要に応じてオイルケア
水拭きの後など、少し乾燥してしまった場合に行います。
先述した水拭きは革に含まれる油分も一緒に拭き取ってしまい、乾燥により水分と一緒に油分も多少なりとも飛んでしまいます。
油分はオイルレザーの柔軟で丈夫な性質に深く関わっており、適度な油分がないと傷やひび割れの原因となります。
プエブロに含まれるオイルの量は実際のところかなり多いので普段の使用からはひび割れが発生する心配はあまりありません。
後述しますが、雨などのトラブル対応の後にも有効な手段です。
当店ではケアオイルは比較的入手しやすいラナパーを使用しています。
少量、布きれで取り、オイル用ブラシになじませるようにして塗り込みます。
その後、オイル用ブラシを使用して革製品全体になじませるようにして塗布していきます。
埃除去のブラッシング同様に縫い目までしっかりとブラッシングしてあげるイメージで行いましょう。
最後にもう一度乾拭きで余計な油分を吸着させてあげれば完了です。
防水スプレーは使うべき?
防水スプレーについての効果と影響はこちらの記事をご参考に▼
防水スプレーは革製品に撥水(水滴を軽く弾く)効果を与えてくれるため
正しく使用すればかなり効果的です。
ただし、若干ですがスプレー後は革の経年変化に影響を与えてしまうため
自然な経年変化を楽しみたい!という方は、
スプレーせずにそのままお使いいただくのが良いと思います。
革の防水スプレーには大別して2種類、「フッ素系」と「シリコン系」がありますが、
革製品に使うのであれば必ず「フッ素系」のスプレーを使用しましょう。
フッ素系スプレーは革の繊維に染み込み、その構造自体に撥水効果を与えてくれます。
それに対してシリコン系スプレーは表層全体に薄い膜を張るようにして撥水効果を得るもののため
革本来の質感を損ねてしまうため絶対にNGです。
大事なことなのでもう一度。
革製品の防水スプレーは、必ず「フッ素系スプレー」を使用しましょう。
トラブル対応編
雨に濡れてしまったり、一部に汚れがついてしまったり、夏場は汗が染み込んでしまったり・・・
度合いによって完全に復元できない場合もありますので回避することが一番ですが
もしこういったトラブルに遭遇してしまった場合の対応方法です。
突然の雨に濡れてしまった場合
まずは乾いた柔らかい布きれで叩くようにして水分を吸収してあげましょう。
その際、ドライヤーなどで乾かすと革の油分を余計に飛ばしてしまい、シミになりますので絶対にしないでください。
水分の脱水方法について、詳しいブログはこちらをどうぞ▼
汗がついてしまったら
汗には塩分が含まれており、これが革にダメージを与えたりシミの原因ともなってしまう可能性があります。
すぐにはシミになりませんが、完全に乾燥してしまう前に手を打ちましょう。
先述したお手入れ方法「水拭き」が有効です。
全体を優しく拭き取りしっかりと汗を拭き取ってあげてください。
その後、ムラなく乾拭き、状況に応じて仕上げにオイルケアをしてあげましょう。
傷がついてしまったら
実はプエブロに関しては傷が目立ち始めるのは中期〜後期です。
というのもその性質上、初期状態は軽く毛羽立っているため、極端に行ってしまえば「全体が傷ついている状態」だからです。
中期〜後期においては毛羽立ちが寝てスムースな銀面となりますので少し引っ掻いたりすると跡が目立ってしまう
といった事なのです。
ただ、目立つとはいうもののお手入れは簡単、「指先で揉みこむ」「乾いたブラシで軽くブラッシングする」
これだけで傷が目立たなくなります。
それでも傷が消えない場合は含有しているオイルが不足しているケースが考えられますので「オイルケア」の方法を試してみてください。
跡形もなく傷が消えてくれると思います。
番外編|こっそり教える裏ワザ
ブログで公開するかちょっと迷ったのですが、ここだけの話で書いちゃいます。
というのも、この手法はある程度の技術と慣れが必要となります。
実施する際は自己責任にてお願いいたします。
その裏ワザとは「初期状態の銀面を復活させる方法」です。
真鍮ワイヤーブラシで弧を描きながらブラッシング
初期状態において、一部に極端に圧がかかり色が濃くなってしまった。
後期状態において、少し遊んでみたくなった。
そんな場合に有効なケースがあります。
小さい丸を描くように、ごく軽い力と一定のリズムで革の銀面を磨りあげていきます。
一般的には銀磨りと呼ばれる革の仕上げの技法なのですが、これを行う事でプエブロ初期の持つザラっとした和紙のよう銀面が復活します。
ただし、革の表面を傷つける行為となりますので、積極的に行うことはおすすめしません。
革の「お手入れ」というよりは「加工」の分野になりますね。
プエブロのお手入れについてのまとめ
最初にも書きましたが、プエブロは傷や汚れに強く、ほったらかしでも経年変化が楽しめる素晴らしい革です。
しかしその性質を理解しておけば、臨機応変に対応することができます。
大切なのは初期状態と、経年変化後ではケアのアプローチが変わってくる、ということ。
ブラッシング、乾拭き、水拭き、オイルケアの優先度を考えるだけでも、普段のお手入れより一歩踏み込んだケアができるはず。
参考になりましたでしょうか?
当店のレザーケアに少しでもお役に立てたなら幸いです。
革に関するブログを週一で更新しておりますので、これからもどうぞよろしくお願い致します!
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